milkteaのブログ

片想いの恋愛小説を書いています

モモさんの恋愛事情11


リョウさんとモモさんが別れたらしい、
そんな噂を耳にしたのは夏季休暇から明けて間もなくのことだった。
 秋には結婚するんじゃないか、そう噂されていたのに、秋を待たずに二人は別れてしまった。
 やはりモモさんはご主人を忘れられないらしい、そういうことになっていた。モモさんには忘れられない人がいるからだ、という事実が噂の中で変化していたのだ。僕は知っている。モモさんが忘れられないのは亡くなったご主人ではないということを。
 あの男…………!
腹が立った。せっかくモモさんが幸せになろうとしていたのに、たったあの一瞬で何もかも奪い去った。嵐のように激しい勢いでモモさんにまっしぐらに歩いて来たあの男…!
あんな表情は初めて見た。思い詰めた瞳は深い深い夜の闇のようにモモさんを飲み込んだ。


 あれ以来、僕はモモさんに近づけないでいた。
モモさんがそれを望んでいるような気がしたのだ。
モモさんは、もう戻れないところにいる。
僕には手が届かない遠いところにいるのだ。


 でも、なんてキレイなんだ。
前よりさらにキレイでキラキラ輝いている。
それがあの男によるものなのだと思うと腹が立ってどうしようもないくらいキレイだ。
 もともと白い肌はより白く、潤んでみえる瞳には不思議な煌めきと憂いが差し、時々遠い目をしてため息をつく横顔は艶やかだった。
 なんて男だ。
あっという間にモモさんを変えてしまった。


 モモさんを見てたらイライラしてたまらず、
僕は部屋を飛び出しカフェでひと息つくことにした。午前11時、いつもならちょうど誰も居ないはずの時間だった。珍しく人の声がして驚いた。一人になりたかったから、仕方ないアイスコーヒーを買ってバルコニーに行こう、とプラスチックカップを買って声のする方を見て、僕は脳みそが沸騰しそうに頭がカッと熱くなった。
 あの男、ユウさんがそこにいたのだ。いつもの彼女と向き合って座ってコーヒーを飲んでいたのだ。
なんなんだ…!
奥さんもいて、その彼女とも変わらず仲が良くて、さらにモモさんまで手に入れたのか!
 イライラしながらカップに氷をいれて
コーヒーメーカーにセットした。確かにカッコいい。不思議な魅力がある。カリスマ性がある。
だからなんなんだ。
これじゃあただの女たらしじゃないか。


 「別に、何も無いよ」
だが、そう言ったユウさんの声は少し素っ気なかった。
 「でも、前となんか違うよね?どうしたの?」
 「どうもしないよ、話ってそれ?今、忙しいから、もう戻るよ」
ガタンと音がして、ユウさんが立ち上がるのが見えた。
 「この間のあの子と何かあるの?」
彼女がユウさんの手を掴むのが見えた。
 「何のことかわからないな。とにかく戻るから」
冷たかった………。
それ以上何も言わせない冷たさが声に宿っていた。
そしてイライラした様子でこちらに向って来た。
コーヒーメーカーの近くにあるゴミ箱にカップを放り投げた後、僕に気づいて、ハッとするのが分かった。僕は彼には全く気づかないフリで、アイスコーヒーにミルクとガムシロを入れ始めた。
少し躊躇して、でも彼はあの時のようにカツカツ、靴音を響かせて去って行った。


 彼もホンキなんだ………そんな気がした。
でも、どうするつもりなんだ。
彼女はともかく、家庭はどうするつもりなんだ。
僕のイライラは別の何かに変わり、モヤモヤとすっきりしない。
ガムシロを2つも入れたのに、アイスコーヒーはちっとも甘く感じなかった。
 


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モモさんの恋愛事情10


 モモさんは、リョウさんと付き合ってるんですか?


週末にLINEで送ったら、いつもすぐに返信をくれるのに、
モモさんの返信は2時間後だった。


 リョウさんとは実は微妙な関係なの。
ハッキリさせなきゃいけないんだけど、なかなか…。


 モモさんには他に好きなヒトがいるんじゃないですか?


思い切って直球勝負してみた。
僕は、とにかく、モモさんの力になりたかった。
そのためには、ユウさんとのことを聞くしかない。


モモさんの返信は1時間後だった。


 好きなヒトいます。
でも、片想いで、絶対に手が届かないヒトだから、
彼のことは忘れたいの。
 リョウさんは私に、その彼を忘れさせてくれる、って言ってくれたから、わたしも、リョウさんと新しい関係を築きたいのだけど、なかなかその一歩が踏み出せなくて。
 多分、彼を忘れたくないのだと思います。


 リョウさんは、確か、モモさんより少し年下だ。
新卒入社組だから会社では古株のほうで、営業企画部でも副部長というポストにいる。ユウさんと同期だったはずだ。ユウさんと同じくらい若手のやり手で通っている。一見遊び人に見えるが、実は噂はあまり聞いたことがない。ユウさんと同じくモデルみたいにスラリと背が高く細身だが、ユウさんのように誰にでも優しい人懐っこい雰囲気はない。切れ長の細い目はクールで、冷たい印象を与えなくもない。営業マンらしく礼儀正しくトークはうまいらしいが、営業マンにしては第一印象が冷たい気がする。ただ、口先だけではなく、本当に知識と実績スキルが高いからクライアントの信頼は厚いと聞いている。実際、お客様相談室にもかなり来ていて、お客様の声をしっかりクライアントに伝えることをしている。クールな外見とは裏腹に、先輩や上司にはイジられたりしていて可愛がられているのをよく見かける。
 ユウさんとは全く違う雰囲気だか、同じくらい
モテるんじゃないだろうか。


 
そうか、モモさんにそんなことを言っているのか。


 忘れさせる、なんてクールどころか、むしろ熱いじゃないか。


 モモさん、無理にわすれようとしなくてもいいんじゃないですか?リョウさんが忘れさせてくれるなら、リョウさんに任せたらいいんじゃないですか?


 あっきぃ、そう思う?
忘れられないまま、リョウさんと付き合ったりしていいのかな?


 リョウさんがわかってて、それでいいなら、いいと思います。リョウさんが忘れさせてくれたらいいと思います。


 ありがと。リョウさんと話してみるね。


 そんなLINEのやりとりから10日ほど過ぎた頃、
モモさんのまわりをウロウロしていた僕にモモさんが言った。


 あっきぃ、わたし彼とお付き合いはじめたよ。


 僕は寂しい気持ちと嬉しい気持ちと半々だったが、にっこり笑った。


 よかったです。


 モモさんも寂しいような嬉しいようなそんな笑顔だった。


 リョウさん、どうか、モモさんがあの人を忘れるようにしてください。妻子ある人を好きでいるなんてやめさせてください。


 リョウさんには言えないが、リョウさんを見るたびに僕は念じてしまう。




 今日も僕はモモさんの周りをウロウロする。
モモさんがリョウさんと付き合っていても、やっぱり、僕は、モモさんが大好きだ。
モモさんは今日もきれいだ。
モモさんは今日も可愛い。
モモさんの笑顔は今日も僕を笑顔にしてくれる。


 あっきぃ、おっはよ!
今日もお仕事頑張ろうね!


モモさんの甘い声に僕は、デレデレになる。


こんな片想いなら、いつまで続いたっていいと思う。


 いつか、リョウさんと結婚することになればいい。モモさんが幸せになるなら僕も幸せだ。
そういえば、最近、あの人を見かけることもなくなった。
 きっと、もうモモさんもあの人を忘れかけているはずだ………。



 その時まで、僕はご機嫌だった。
二人の距離は3メートル、廊下の端と端、
ユウさんはあの人と、モモさんは僕と、並んで歩いていた。どちらも笑いながら話をしながら歩いていた。なのに、その一瞬、時間が止まった。
 ユウさんとモモさんが見つめ合った。
どちらも立ち止まっていた。
先に気づいたのは彼女で、すぐにユウさんを振り返った。僕はモモさんを振り返ることができなかった。
 先に、ユウさんが歩き始めた。
笑顔はなかった。ひどく思いつめた表情で、隣にいる彼女の存在も忘れて、ひたすらモモさんを見つめてモモさんに向かって歩き始めた。あっという間に彼女との距離は広がった。長い足でカツカツと靴音を響かせて、今にも駆け出しそうな速さだった。
 そして、立ちすくむ僕とすれ違うところで、ピタリと立ち止まった。何か言ったのか、何も言わなかったのか、僕には分からなかった。再び、彼の靴音が響き、それは遠ざかって行った。聞こえなくなるまで待って、僕は振り返った。


 そこに、モモさんの姿はなかった…………。


 








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モモさんの恋愛事情9


 浴衣姿のモモさんがアイスコーヒーをプラスチックのカップに入れて蓋をしてストローを差す。それからいつもの優しい笑顔でそれを差し出す。受け取るのは若い男性社員だ。モモさんに見惚れていた。


 今日は毎年恒例の会社の夏祭りだ。
といっても、僕もモモさんも入社1年目だから初めてのことだが。地元ではわりと大きな花火大会のある日で、会社のビルが花火をあげる川辺に近いので会社の駐車場を開放して地域に貢献する主旨のもと会社の敷地内で出店を出しているのだ。僕達お客様相談室では冷たいノンアルコールを販売している。係になったのが僕とモモさんだ。周りには焼きそばやお好み焼、チョコバナナや生ビール、焼き鳥の屋台もある。僕達はアイスコーヒー、アイスティー、アイス抹茶、ジュース3種というメニューで、恐らく集客は望めないだろうみたいな感じだった。なのに、モモさんの浴衣姿の効果は絶大で、ホントは生ビールが飲みたいはずの連中がアイスコーヒーを買いに来て、行列をつくる盛況ぶりだ。ナルホド、周りの出店が男子新入社員の担当だから仕方ない。
僕は、内心不機嫌だった。
今夜、お客様相談室にモモさんというキレイなヒトがいるってことが社内に知れ渡ってしまうからだ。
10ヶ月前に入社したモモさんの存在は同じフロアの人にしか知られていなかったというのに。


 モモさんは不思議と人を惹きつける魅力がある。
モモさんより美人で可愛い女子ならたくさんいるはずだが、モモさんを前にしたらどんな美人もかすんでしまう気がする。モモさんはいわゆる美人とは違うと思う。だが、女性も男性も、思わず見つめてしまうような魅力がある。色気、優しさ、柔らかな空気、そんなモモさんの全てが人を魅了するのだ。
 ユウさんとはどうなっているのか、僕にはわからない。知る術もない。だから気になってたまらない。だが、ユウさんだけを気にしている場合ではなくなっていることに、僕は、気づくべきだった。


 花火の打ち上げが始まる7時、僕達のカフェ屋台は閉店することになっていた。花火が始まった。お客様相談室の新入メンバーが片づけを手伝いに来た。その時、スルリと、営業企画部のリョウさんが、浴衣姿のモモさんの手を握り連れ去った。僕は、ノーマークだったから気づくのがかなり遅れてしまった。そういえば、営業企画部はお客様相談室とは仕事上かなり密接な関係にある。中でもリョウさんは、かなり、お客様相談室に出入りしていた。
だが、モモさんと個人的に近づいているのは気づかなかった………!


 「やっぱり、リョウさんはモモさん狙いだったね。」


 そんな声がした。
やっぱり!?
僕は、僕としたことが、ユウさんに気をとられるあまり、他の男の存在には全く気づいていなかった!


 数日後、お客様相談室はリョウさんとモモさんの噂でもちきりだった。



 でも、僕は、僕には、なんとなくわかっていた。
多分、モモさんはわざと噂になるようなことをしたんだ。全てはユウさんのためなんだ。


 










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