milkteaのブログ

片想いの恋愛小説を書いています

モモさんの恋愛事情8


不倫?


お昼休み、社内のカフェで日替わり定食が出てくるのを待ってたら、そんな声がした。僕はドキリとして声の主を覗き見た。


 「坂井さんと岩本さん、前から仲良かったじゃない?」


 僕の後ろでトレーにサラダを載せて並んでいる知らない女子社員の二人組だった。


 「仲良かったからって不倫してるとは限らないじゃん」


 「もちろん、それだけじゃなくて、一部では有名だったみたい。飲み会の時、二人で手をつないでホテルに消えるって」


 「えっ!?そんなこと堂々としちゃってたの?
岩本さんの子、まだ幼稚園とかだよね?」


 「そうなの?とりあえずそれが上に知られて、
今回の急な異動みたいだよ。しかも……」


 日替りお待たせしました〜


 カフェの店員さんの声で彼女達の会話がかき消されてしまった。
話の続きが気になったが、トレーにロコモコを載せられたら、その場から離れるしかない。僕はドキドキしながら、仕方なくトレーを手にテーブル席へ歩き出した。そういえば今朝、社内ホームページに人事異動情報があった気がする。後で見てみよう…。


 奥さま以外のヒトにひとめぼれ……


 確か、モモさん、あの時そんなことを言ってた。
つまり、ユウさんがモモさんにそう言った、ということだ。ということは、二人は気持ちを伝えあった、ということだ。大人の二人が告白だけで終わるだろうか。中高生だって、告白だけでは終わらない。だが、その先に進んだら、二人の場合も、不倫、ということになる。


 でも、モモさんのあの感じだと……、
いや、僕がそう思いたいだけかな……。


 あの夜から一週間があっという間に過ぎた。
僕はあの時のことには全く触れずに、相変わらずモモさんのまわりをウロウロしてはモモさんに話しかけられてニヤニヤしたりしていた。僕の以前と変わらない様子に、モモさんも安心している様子だった。相変わらずいつでも誰にでも笑顔で優しい。もちろん僕には前と変わらず素のモモさんで接してくれている。


 チョッピリ、悩んでいる……


 あの夜、そう言ってた。
不倫の関係に悩んでいるのだろうか?
でも、人気のモテ男であるユウさんが不倫していたら、それこそ噂になっているんじゃないだろうか?
誰にも知られずにいられるだろうか?


 「んもう!ユウさんったらぁ~」


その時、やけに甘ったるい声がして僕はむせかえった。特に美味しくはないカフェの料理が今日はいつも以上に味がわからなくなっていた。
声の主はユウさんと同じブランド推進室の女性で、よくユウさんと一緒にいる人だった。二人は楽しそうに笑いあいながら、向かいあって一緒に食事をしていた。噂になるなら、組合せはむしろあの二人のほうかもしれない。モモさんと一緒にいるところは社内では多分、僕しか見ていない。
 モモさんはいつも手作り弁当だからカフェにはいない。お弁当女子達は、1階の中庭に面した休憩室にレンジや冷蔵庫があるのでそちらで食べるのだ。
僕もコンビニから何か買ってきた日はそちらで食べたりする。カフェと同じくらい広くて、カップ麺を食べられるように熱湯の入ったポットも置いてあるので、男子も結構利用しているのだ。
 それにしても、あの二人はよく一緒にいる姿を見かける。ガラスの向こうに見えていた時でも、カフェでも廊下でも。


 僕達、お客様相談室が引っ越して数日が過ぎた。
今まで5階にいたのが、7階の全フロアを使うことになった。もう、ガラスの壁はない。席替えもしたし、15人くらい異動や派遣で人も増えた。
モモさんは新しいメンバーの教育係になって前よりいっそう仕事を頑張っている。
ピンクのタンブラーも復活した。
もうカフェでコーヒーを買うことはないみたいだ。
 そして、二人の姿を見ることもなくなった。
僕はそれがかえって心配だった。
社内で会わないだけで、僕の知らないところで会っているんじゃないか……。
 だが、今、カフェで仲良く食事するこの二人を見ると、ひょっとしたらやはりモモさんは不倫なんてしたくなくて、彼から離れたんじゃないかと思えてくる。
 急にロコモコが美味しく思えてきて、僕はニヤニヤしてしまうのをごまかすように咳するフリをした。さっさと食べてモモさんにLINEしよう。


 その時、ユウさんの携帯が鳴った。
1コールで電話に出るとすぐに彼の表情が変わった。
楽しそうな笑顔から、とても優しい笑顔に変わった。向かいに座る彼女にごめん、と手刀を切ると、まだ料理が少し残っているトレーを片手に電話の相手に話しかけながら返却口へ返しに行きさっさとカフェを出ていった。彼女にはもう用がないかのような態度で、僕はちょっと彼女が気の毒に思えた。
残された彼女は突然の素早い彼の行動に、ついていけていなかった。ポカンとしていた。


 僕は僕で、いそいそとロコモコをたいらげ、彼を追うようにカフェを出た。いや、別に彼を追うつもりではない。ただ、モモさんにLINEしようと思って、その場所に選んだのがカフェと同じ三階にあるバルコニーだったのだ。暑い今の季節は誰もいないが、風があるし日影だから割と涼しいのだ。ベンチもある。ところが誰もいないと思ってベンチでLINEをしようとしたら、人の声がした。半円型のバルコニーの中央に僕はいて、多分、声の主は左端の柱の陰にいる。


「………来れる?」


微かに風に乗って聞えてきたのは、彼のこえだった。


「うん、そうだよ。………大丈夫だよ、心配いらない。………会わないなんて無理だよ」


僕はびっくりした。なんていうか、そう、男の甘ったるい声、話し方だった。電話の相手がよっぽど好きなんだ、そう思った。あの、カフェでユウさんに甘えた話し方をする彼女への態度とは大違いだった。あの、颯爽としたクールでお洒落なユウさんとは思えない、ひどく甘ったるい声と話し方だった。


「………わかってるよ。大丈夫だよ…。うん……
そうだね……うん、わかってるよ……。でも、無理だよ…。そうだよね?……だから、待ってるよ、うん………そうだよ………。言いたいことはその時、言うから………」


 僕は逃げるように、そっとバルコニーを離れた。なぜかはわからないがそのまま、重い鉄の扉を開けて非常階段に滑り込んだ。息苦しくて、そのまま、非常階段を下に降りた。二階の踊り場にモモさんがいることに気づくのに少し、時間がかかった。
それが致命的だった。


「大好き、愛してる、だから、あなたの幸せを壊したくないの。だから、もう会わないの。待ってるなんて言わないで。大丈夫、私に出会う前のあなたに戻ればいいの………。」





にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ
にほんブログ村

×

非ログインユーザーとして返信する