milkteaのブログ

片想いの恋愛小説を書いています

モモさんの恋愛事情5

 

ユウさん、彼はそう呼ばれている。

僕達のいるお客様相談室のガラスの壁の向こうにあるブランド推進室の若き室長だ。

 モデルみたいにスラリとして、男の僕から見てもかっこいいと思う。いわゆるイケメンとはちょっと違うと思う。整った顔だとは思う。でもたぶん、彼の格好良さは彼の内面からくるものなんだと思う。

雰囲気とか身のこなしが彼をそう見せるのだと思う。

 モモさんがガラス越しに彼を見つめているもんだから、すっかり僕まで彼のファンみたいに彼について詳しくなってしまった。

 ユウさん、彼の部屋の女性達はそう呼んで、

しょっちゅう彼のそばに集まっている。ユウさんもいつもみんなに優しく接しているのが分かる。

みんなに慕われていて、仕事のデキる頼れる上司なのだ。僕とたいして歳のかわらない、若くして認められているヒトなのだ。妻子のあるヒトなのにも関わらず、女性達から人気のあるヒトなのだ。

彼自身はどう思っているのかはわからないが、

女性達の中には本気で彼のことが好きで、彼と仲良くしている女性が妬まれたりすることもあるらしい。

 

 モモさんはガラス越しに彼を見つめている。

たまたま席が彼の方を向いているもんだから、

一日中彼を見ることができてしまうのだ。

 彼が立ち上がり、部下に仕事の指示をしている姿や、部下達に何か相談されているのを、モモさんは眩しそうに眺めている。モモさんにとって、彼は輝いて見えているみたいだ。

 彼は、会社でも有名なモテ男だ。

彼のファンはたくさんいる。

 モモさんはたくさんいる女性達とは違う。

どこにでもいるヒトとは違う。

モモさんだってファンがたくさんいるんだ。

キレイでスタイルよくて、優しくて、どこか色っぽくて、男達の噂の的になっているようなヒトなのだ。

 だから、そんなモモさんがたくさんいる彼のファンの一人とは思いたくなかった。

 でも、やっぱりモモさんは違った。

その他大勢のはずがなかった。

 ユウさんもモモさんを見ていたのだ。

いや、むしろ、ユウさんのほうがモモさんのファンなんじゃないかと思うほど、彼は、モモさんをみていた。モモさんを見ている僕だから気づいてしまった。ユウさんはモモさんをいつも見ている。モモさんがニコニコ楽しそうに誰かと話していたり、お客様の電話に一生懸命だったりするのを、彼は、うっとりと見惚れているみたいに見ていた。

そんなに見たら、僕じゃなくても気づくんじゃないか、それくらい見てた。

 二人はお互いに見ているのを初めは気づいていないみたいだった。でもすぐに気づいた。当たり前だ。お互いに見つめているんだから、当然、よく目が合う。お互いにバレないように見ていないふりをしても無駄だった。お互いに惹かれあっていることはもう気づいているはずだ。

 ただ、惹かれあったところで、彼には妻子がある。だから、お互いに、ただ惹かれあっているだけなのだ。お互いに、相手が笑顔でいるのをただ、確認している。どちらかがマスクをしたり、咳こんだりするのをみつけると、ひどく心配そうにしたり、

仕事で何か困っていたり、忙しくしているのが分かると、相手に笑顔が戻るまで見守っていたりしている。そして、相手の笑顔を確認すると、ホッと安心して自分にも笑顔が戻る。

 お互いに惹かれあっていることは、たぶん、気づいているのに、ただ、お互いに相手が笑顔でいたらそれでいい………そんな、二人だった。


 僕は、そんな二人を見ていた。

なんて素敵なんだろう、そんな風に思っていた。

純粋な想い、優しさ、それがお互いに相手を笑顔にするなんて、とても素敵なことだ。


 でも、それは、二人がガラス越しに見つめ合うことができていたからだった。

二人の関係が今、変わろうとしているのを僕は見てしまった。


 僕達、お客様相談室が拡大することになったのが原因だった。会社として、今後一番力を入れなくてはいけない、と、人数を大幅に増やすことになり、

僕達は、広い部屋に引っ越すことになった。


 もう、毎日、姿を見られなくなってしまう。

もう、毎日、会えなくなってしまう。


 そんな想いが二人を変えようとしていた……。


               つづく

モモさんの恋愛事情4

 モモさんは天然だ。

いわゆる天然キャラではなく、正真正銘の天然なんだと僕は思う。

 モモさんは、まるで世の中に悪い人なんていないと思っているかのように、どんな人にも誰にでもいつでも笑顔だ。

 無愛想なあのコにも、気分屋なあのヒトにも、

裏表激しいあのヒトにも、どんな態度をとられても

いつも変わらずに優しい笑顔だ。

 危なかっしくて見てられない。

無防備過ぎてハラハラしてしまう。

 そいつには近づいちゃダメだ!

そんな奴にニコニコしちゃダメだ!

ダメだよ、そいつにはそんな風に優しくしては……。

 僕はいつも内心ハラハラ、時にイライラしながらモモさんを見てきた。だから、ある時気づいた。

モモさんは無防備に見えて、実はガードは堅い。

モモさんが未亡人だと知れた途端に、モモさんを遠巻きに見ていた男共が接近し始めたが、食事の誘い、ドライブ、映画、誰が何を誘っても、笑顔でまた今度、とやんわり断っているのだ。

そこには、相手のプライドを傷つけない程度に、でもハッキリとしたお断りの姿勢がある。

未亡人ということもあり、とうとう誰も誘えなくなってしまった。

 そうか、亡くなったご主人を想い続けているのか、と僕は嬉しいような悲しいような複雑な思いでいた。

 でも、モモさんをずっと見続けている僕は気づいてしまった。


 ある時から、薬指の指輪がなくなった。

そして、モモさんがあの男を見つめていることに気づくのに時間はかからなかった。

誰もいらないんじゃない。

誰かしかいらないのだ。

あの男しか見えていないのだ。


 モモさん、あの男はすごく人気のあるヤツじゃないか。妻子があるにも関わらず、モテモテのヤツじゃないか。

 モモさんは違うはずだ。

その他大勢とは、違うヒトのはずだ。

なのに、なのに、どうしてなんだ……。


 僕は初め、ひどくがっかりした。

でも、やはりモモさんは僕の想ったヒトだと気づくのに、そう時間はかからなかった。


               つづく

モモさんの恋愛事情3

 

10ヶ月前、初めて会った時、モモさんの左手の薬指にはキラリと光る指輪があった。


そっか、結婚してるんだ…。

そうだよな、結婚、してるよな…。

こんなにキレイで可愛い人がひとりのはずがない。

ひどくがっかりしたのを覚えている。


 そう、モモさんは結婚していた。

生まれて初めて付き合った人と、

10年前に結婚していた。

 でも、2年前にご主人は亡くなっていた。

事故で亡くなっていて、モモさんは未亡人だった。

 だけど、まだ、結婚指輪をしている、

そんな、モモさんだった。


 それなのに、そんなモモさんだったのに、

恋に堕ちてしまった。

うるさいくらいまつ毛が長く、顔の小さなあの男に。

少年のようなあどけなさと、大人の男の顔とが共存する、モデルのように細くスラリとしたあの男に。

皆から慕われている頼れる仕事のできるあの、男に。


妻子ある、あの、男に……!